二天一流 f




大田で数日トライしていた課題が登れた。


7年くらい前に、北辰一刀流eをトライしていた時に見つけたラインだ。北辰一刀流はとにかく苦手が集まったような課題で強度が高く、当時10日ほどかけて登った。今シーズン再びトライしてみると、数トライで呆気なく登れてしまった。強くなっているというより、足が上手くなったのだろう。


北辰一刀流の左面のフェースに今回のラインはある。小さなホールドが散らばっているが、登られていない。


7年前に一度トライしたものの、スタートさえ切れずに終わった。今回、北辰一刀流がサクッと登れたので、しっかりと掃除して再び取りついてみた。案の定、スタートがなかなかきれなかったが、細かいポジションを探っていたら、コツが掴めるようになった。しかし、問題はその後。初手も甘いし、2手目も厳しいホールド。足位置を探りながらコンプレッションで止めてゆく。


結局掃除含めて4日かかり、マイクロベータが出揃ったところで登れた。下部数手が核心だが、上部もバランスが悪く、気を抜くと手が抜ける。



登れたトライは何故か最初から色々とバラバラだった。足の位置も手も全て上手くハマらず、無用な力を使ってしまったが、チッピングされて失われた課題に対する怒りと気合いで登れてしまった...





二刀流のようなセパレートスタートなので、


二天一流 f  


とします。是非ご賞味ください。左手アンダー、右手斜めホールドスタートです。岩の形状にしたがって登る、素直なラインです。今の自分が持っているものは全て出せたかな...もう少し高度があるとより良かったなぁ。




後日談

実は二天一流を登った午前中、チッピングされたと噂のあった拷問を7年ぶりくらいに見に行った。昔は裏から入れたので、正面からの行き方を忘れており1時間近くかかった。それを見越してシューズと液体チョークのみ持って森を歩き回れたのは楽だった。

拷問にノーマット、ノーアップで取り付いた。拷問のような薄カチだったホールドはまるでジムのガバカチのように削られ、そこら中でマッチ出来た。核心は無くなり、単に手数の多い二級くらいのトラバースに。チッピング犯の人物像が手に取るように分かった...あの当時、何日も打ち込んだ課題が、いとも容易く登れるアップ課題になってしまった...核心のクロスムーブに憧れて、何度も打ち込んだ事を今も覚えている。


7年前、私が拷問に通っていた頃。


そこには宵の口をプロジェクトとしてトライする指男さんが居た。当時イボルブ に通っていた私は、指男さんの強靭な肉体と角刈りにただならぬ気配と憧れを感じて居た。同じジムに居ても、同じ岩に居ても、挨拶程度で殆ど話すことは無かったが、その佇まいから、その登りから、そして岩を見つめるその背中から、クライマーのかくあるべき姿を学んだ。


あの日の夕暮れを思い出すと、どこにもぶつける事の出来ない怒りが込み上げてきた。クライミングとは、いかに厳しく、いかに妥協することなく岩を登るのか、そういうものだったはず...


不本意にもその怒りは、二天一流初登の力となった...最初から全てが噛み合わなかったトライ、普段なら辞めてしまうようなそのトライで、今まで出せなかった声が山の中にこだました。それはまさに腹の底から出た声だった。後半の簡単なムーブでも何度も落ちそうになり、それでも必死に岩にしがみつきながら登った。たぶん周りに誰か居たら、登りきれなかっただろう。それくらい泥臭く、それくらい必死のトライだった。


正直グレードは良く分からない。二段で良い気もするし、もう少し難しいのかも知れないし、綺麗に登り直せばもっと簡単なのかも知れない。ただただ必死で、ただただ怒っていたのだ。それでも登り直そうとは思えなかった。今の自分に出来る最高のクライミングは、綺麗に登ることでも、静かに登ることでも、高グレードを登ることでも無い。泥臭く、必死に、結晶を踏み潰して、しがみついて居たいのだ。



乾坤をそのまま庭に見る時は、

我は天地の外にこそ住め


宮本武蔵




Comments

Popular Posts